4月号の書は「豪放磊落」です
精神に上等なご馳走を
人間は、肉体と精神でできています。健康な肉体を維持するためには、質のよい食べ物が必要です。同じように、豊かな精神を養うためには、質のよい音楽、文学、美術などの文化を召し上がっていただきたいと思います。
私の実家のお隣は、芝居小屋兼映画館で、お向かいはレコード屋さん。おかげで子どもの頃から、映画や芝居、さまざまな音楽に親しんできました。当時はまだ、大正浪漫の面影が残っていた時代。私はロマン溢れる雰囲気の中で育ちました。
やがて軍国主義の時代が訪れ、文化が弾圧されるようになりました。画家は戦争画以外、描いてはいけないと言われ、抒情的な文化は軟弱だ、役立たずだと排斥された。そういうひどい時代を体験したからこそ、文化の大切さをひしひしと感じるのです。
では、質のよい文化とは、どういうものなのでしょう。パッと思いつかなければ、まずは日本の伝統文化に目を向けてみませんか? たとえば歌川広重や葛飾北斎などで知られる浮世絵。粋な美意識と高度な技術からなる作品は、世界的な画家であるゴッホやゴーギャンにも影響を与えました。
歌舞伎の中には『暫(しばらく)』の主人公のように、奇抜な衣装を着た豪放磊落なキャラクターが登場します。これもまた日本の、とくに江戸っ子の美意識でしょう。こうした伝統芸能や文化は、知れば知るほど奥深く、日本が世界に誇れるもののひとつです。
ちなみにこの「豪放磊落」という言葉、人生を彩る言葉として好きなので、時々色紙にも書きます。度量が大きく快活、些細なことは気にしないという意味。こういうご時世には、心を元気にしたいですね。みなさんも文化や言葉を見つけて、ぜひ精神の糧にしてください。
●今月の書「豪放磊落」