気づけば夢中に
結局、仕事が立て込んでいたこともあり、代わりに登山経験のある夫に行ってもらうことにしました。ところが浅間山から戻った登山メンバーたちが「最高だった」と楽しそうに話しているのを聞いているうちに、私も登ってみたいと心が動いて。
1ヵ月後に実行したのですが、標高2000メートル(浅間山は2568メートル)の火山館というロッジまで行ってギブアップ。本当につらくて、今度こそ二度と登山はしないと誓ったほどでした。(笑)
それなのに、10年にルイが死んでしまい、事態は思わぬ方向へと流れていきます。
セントバーナードの平均寿命は7歳ほどといわれるなか、彼女は9歳5ヵ月も生きてくれました。いつかは別れがくると覚悟もしていたのですが、ルイを失った喪失感は仕事も手につかないほど大きかった。
沈んでいる私を見るに見かねたのでしょう。夫が「山に登ってみないか」と声をかけてくれ、私は「登ってみたい」と答えました。
つらいことはつらいことでこそ乗り越えられるかもしれない、と考えたからです。それに、モヤモヤとした行き場のない悲しみを紛らわすためにはシンプルなことをしたほうがいいとも思ったのです。
さっそく挑戦してみたものの、この時も頂上へ辿り着くことはできませんでした。でも、ハアハアと息があがり、苦しさやしんどさに耐えながら無心になって山を登っている間はルイを失った悲しみから逃れられた。
それからというもの、無心になるために何度も山へ向かいました。6回目にして初めて登頂できたときはパァーッと気持ちが晴れて、気づけば登山に夢中になっていたのです。