唯川さん「仕事しかない人生では逃げ場がありません。ですから、趣味を持つことでずいぶんと心が楽になりました。」(撮影:八木沼卓《本社写真部》)

自分に合う趣味を選ぶためには自分を知る必要がある

新しいことにチャレンジするタイミングは人それぞれですが、私の場合は55歳が適齢期だったのでしょう。50代に入って、本を量産することが体力的にしんどくなっていると感じていました。それに、新人作家が書いた作品を読んで面白いと感嘆する一方、焦りや諦観の気持ちも出てきて……。

仕事しかない人生では逃げ場がありません。ですから、趣味を持つことでずいぶんと心が楽になりました。

人生を豊かにするための居場所はいくつかもっていたい。そのためには、「これは苦手だ」「私には無理だ」といった思い込みを捨てることが大事かな。慎重であるのはよいことですが、頑なさに繋がってしまうとつまらない。常に心を緩く開いておきたいと思っています。

何にチャレンジしようかと、迷うこともありますよね。私もありますが、ひとつだけ言えるのは、自分に合う趣味を選ぶためには自分を知る必要があるということ。たとえば趣味で絵を描き始めた知人は、賞を取りたいと悪戦苦闘。それも含めて楽しんでいるようです。でも私は、仕事で優劣を競う刺激は十分に味わってきているので(笑)、競争のない山登りがフィットしたのでしょうね。

最初は夫と2人で登っていた山も、やがて友人や編集者たちと山岳会を結成するまでになりました。でも、登り始めたら《ひとりの世界》。

山登りはひとりで楽しく過ごせるようになるためのレッスンだという気持ちもあります。いまは夫と2人で暮らしていますが、いつかひとりになるときがくるかもしれない。それに、たとえ誰かと一緒であっても、自分で自分を楽しませる術を持っている人は強いと思うのです。