この作品では、薫さんをはじめ、母親役の余貴美子さん、石橋蓮司さん、伊武雅刀さんなどと肩を並べてカメラの前に立ち、すぐ近くでお芝居を見られたことが本当に幸せでしたね。
蓮司さんは、子役時代から数えると芸歴70年だそうです。あの薫さんが敬語を使う場で、俺は一体、どうやってしゃべればいいの(笑)!?と。年齢は自分よりすごく上なのに、背筋をピンと伸ばして現場にいらっしゃる姿を見て、自分もまだまだ頑張らなきゃ、そして蓮司さんの年齢になっても役者を続けていたい、と改めて強く思いましたね。
撮影中、一度だけ薫さん、蓮司さん、伊武さん、笠松伴助さんと僕とでご飯に行かせていただいたんです。レジェンドみたいな人たちの中、自分のような若造が一人ちょこんと座って。皆さん、同じ目線でフラットに話してくださるので、すごくありがたかったし、とにかく楽しかった。
思わず「こんな機会はもうないと思うので、1枚だけいいですか!?」ってお願いして、一緒に写真を撮らせてもらいました。僕の宝です。帰り際に蓮司さんから、「おまえ、芝居いいから頑張れよ!」と言われた時は泣きそうになりましたね。見てくれていたんだなあって……。
一度すべてを失ったからこそ今強く思うのは、とにかく自分はお芝居が大好きで、ずっと携わっていきたいということです。これからも映画や舞台などの作品に、長く携われるような人間であり続けたい。
人生にゴールなんてものはないのかもしれないけれど、どこを目指して頑張ればいいかを考えた時に、「伊藤健太郎の出ている作品なんか観たくない」と言っていた人が、「彼が出る作品なら、観たい」と感じてくれた時がある意味ゴールで、新たな始まりなんじゃないか。今はそんなふうに思っています。
本誌ではリラックスした伊藤さんの笑顔も!
伊藤健太郎さんの記事が掲載されている『婦人公論』7月号は6月15日発売!
【脚本・監督:阪本順治 × 主演:伊藤健太郎】 阪本順治監督によるオリジナル脚本で、人間の業を切なく儚く紡ぐ物語。ー映画『冬薔薇(ふゆそうび)』6月3日(金)~新宿ピカデリー他全国ロードショー