なぜ野球以外の話が多かったのか

先ほどのテレビ番組に登場していた古田敦也、宮本慎也、小早川毅彦は当時、ヤクルトで野村監督の指導を受けた。彼らは、野村監督が主宰するミーティングは、野球だけでなく、社会人としての常識などの話が非常に多かったと話していた。

野村監督は著書で「勝負の世界であるから結果至上主義なのは当然だが、いい結果を出したいからこそ、まずは選手たちの『人づくり』に励むのである」と述べている(『野村ノート』)。

彼は番組内でも、指導者が黙っていても選手が自分で考えて動くというのが理想じゃないですかと述べ、会社でも何でも一緒でしょうと語っている。

おそらく、野球の技術的なことを教えようとしたのではなく、各個人が自己の可能性を広げる思考を促すようなミーティングを目的としていたのではないか。

野村監督は、ミーティングの効果として「意識が変わることで野球観が変わり、その選手のプレーが変わる」と述べている(『野村ノート』)。

私の知人の編集者が、野村監督の本はビジネスマンに固定ファンがいて必ず売れる、と言うのを聞いた時、講演会の控え室のことを思い出したのである。

※本稿は、『転身力 「新しい自分」の見つけ方、育て方』(中公新書)の一部を再編集したものです。


転身力 「新しい自分」の見つけ方、育て方』(著:楠木新/中公新書)

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