「僕、純粋に彼女のファンなんですよ。2018年に彼女に『アンナ・クリスティ』という舞台の話が来たとき、彼女は迷っていたんだけど、「お願いだからやってくれ」って頼んじゃったもん。だって、僕が観たかったから」

『リチャード三世』の初日の後、ニーナが「オレ、イッちゃんで『ハムレット』やりたくなっちゃったなあ」と言ってくれたんです。「僕、50ですよ」「大丈夫、若く見せる演出を思いついたから」。

結局、『ハムレット』は2年後、僕が53歳のときに実現しました。そして、この『ハムレット』でオフィーリアを演じた妻と出会うことになったわけです。妻、ですか? なんというか、本当におもしろい女優さんです(笑)。ニーナに対してだって「そんな大きな声で怒鳴らないでください。できることまでできなくなっちゃう」なんて言い返して、ニーナを謝らせていましたからねえ。(笑)

彼女はオフィーリア役が初舞台だったんですが、芝居は、舞台役者っぽくない生な感じがすごくよかった。ひたむきに生きるオフィーリアを一生懸命演じていて、なんて魅力のある女優さんだろう、と思いました。

出会ったときから気が合う感じはしたかな。たぶん、田舎の匂いがしたんだろうね。彼女は群馬の桐生、僕は埼玉の川越。田舎から夢を持って出てきた人間共通の何かを感じたように思いますね。

え? つきあいだしたきっかけ? プロポーズ? どこかのタイミングで、「2人の子どもが欲しいね」って言ったんだったっけかな。(笑)

僕、純粋に彼女のファンなんですよ。2018年に彼女に『アンナ・クリスティ』という舞台の話が来たとき、彼女は迷っていたんだけど、「お願いだからやってくれ」って頼んじゃったもん。だって、僕が観たかったから。彼女は、僕の芝居に対しても必ず的確なアドバイスをくれるので、本当に助かっています。

 

妻と子どものために何が何でも生きなきゃ

劇団四季を辞めたことでスタートした僕の第2の人生が、こんなふうに転がっていくとは。あまりによくできていて、僕には神様が仕組んだとしか思えません。14年の夏に胃がんが早期で見つかったんですが、これも偶然に偶然が重なって発見できたんです。

あの夏、『ミス・サイゴン』の仕事のためロンドンへ行き、取材を兼ねて飲んだり食べたり。相当胃が疲れているところへきて、帰宅した日に食べた魚で当たっちゃった。

救急で行った病院で、「胃炎」と診断されたんだけど、妻が「この際だから徹底的に調べてください」と。先生も「ちょっと気になるので再検査しましょう」ということで精密検査をしたら、早期のがんが見つかったんです。ラッキーだったとしか言いようがありませんよね。