リンパ転移の可能性もあるので、胃を半分切除しました。数日後、転移がなかったと生検の結果を聞いたときは、ホッとして泣きましたよ。やっぱり、妻と幼い子ども2人のために、何が何でも生きなきゃと思っていたから。退院して家に帰ったら、子どもたちがささやかな「おかえりパーティー」を開いてくれました。うれしかった。ああ、命を取り戻したと、あのとき実感しました。

あれから5年が経ち、検査は欠かさずしていますが、尿酸値がちょっと高いくらいで、今は健康体です。胃が半分になったおかげで、太りにくい体を手に入れましたよ(笑)。今は、食べる量は普通の人の半量。食べようと思えば食べることはできるんですが、せっかく早期にがんを見つけてもらったこの体、健康にも体形維持にも注意しなくては。

何しろ、今年もこの年齢で『ミス・サイゴン』のエンジニアをやるわけです。エンジニア役は4人いるんだけど、若い人はスタイルがいいんですよ。そういうのと比べられて、「市村さん、衰えたね」なんて思われるのは癪だから、体を絞って動ける体をつくっておかないと。

今、妻が「アスレチック女子」になっていて、この2週間で6キロも落としたんです。パーソナルトレーナーをつけてがんがんやって、ケツ筋とかもつけてカッコイイ。だから、僕も、パーソナルトレーナーにお願いして本気で鍛えようと思っているところです。70歳を超えたからこそ、努力をしなくてはいけないと思うんだよ。

息子は11歳と8歳ですが、基本的には優しい子に育っています。もちろん、虫の居所が悪いとふてくされたりするけどね。そんなときは、「何怒ってるの?」と聞きます。「パパ、うるさいよ」と言い返してきますよ。「ふーん、怒ってるんだ。それはホルモンがそういうふうにさせているんだよ」なんて僕が言うと、「パパ、うるさいったら」って。だから「ああ、ホルモンが出てる!」とね。

でも本当に子どもはかわいいですよ。出かけるときも、寝るときも、僕が家にいると「パパ、行ってくるね」「パパ、先に寝てるね」といちいち言いに来るの。(笑)

将来は、2人ともパパみたいな役者になりたいそうで。上の子ははっきりと「自分はこの世界で生きたい」と言っていますし、下の子は「僕はパパがやった役を全部やりたい」って。何になるにしても、息子たちには好きなことを見つけてほしいと思います。

僕はこうして大好きな役者の仕事でここまで楽しく生きてこられました。そんな僕を見てきたので、「パパは楽しそうだな、仕事が大好きなんだな」ということは伝わっていると思います。どんなふうに自分の道を見つけていくのでしょうね、今から楽しみで仕方がありません。