日本の食文化は、地域によって気候風土が大きく異なる自然豊かな日本列島で育まれてきました。食が多様化するいま、1960〜70年頃に食卓にのぼった全国のふるさとの味をまとめた『伝え継ぐ 日本の家庭料理』という全集が話題になっています。企画編集を行った日本調理科学会会長(当時)の香西みどりさんの解説とともに、いわしやさば、かつおなど比較的広い範囲で食べられてきた魚介類を使った料理の一部を紹介します(構成◎本誌編集部 撮影◎長野陽一〈へしこ、いわしのぬかみそ炊き〉、戸倉江里〈りゅうきゅう〉、高木あつ子〈ほかすべて〉)
<前編よりつづく>
和食を支える乾物の「だし」
和食と聞くと、「一汁三菜」という言葉を思い出す人が多いでしょう。もちろん、土井善晴さんが提案された一汁一菜でもいいわけですが(笑)、このかたちに整える意味は、必然的にいろいろな食材、味付け、調理法を使うことになるところにあります。なかでも大きな特徴が、かつお節や昆布、煮干し、干し椎茸を使った「だし」の存在。だしのうま味成分と塩分は互いに引き立て合うので、塩分の使用を抑えることができます。また、干し椎茸や切り干し大根などの伝統的な乾物の面白いところは、時間をかけて乾燥させ保存性が高まるまでの間に、生だったときとはまったく異なる独特の風味を持ったという点です。これを利用したのが、和食と言えるでしょう。
ここでは、四方を海に囲まれ、魚を好んで食べる民族ならではの魚料理の一部をご紹介します。海が近い地域は鮮度を味わうことができますし、そうでない地域では発酵の力を借りて別のおいしさを生み出していました。
酒やしょうがを使って魚の生臭さや雑味を和らげ(マスキング効果)、醤油と砂糖を同時に使うことでいい香りや見た目を演出する――これは一般的な魚の調理法ですが、冷蔵庫がない時代は日持ちさせるために塩に漬けたり、佃煮にしたり。魚をぬかみそで食べる文化も全国的にあることがわかって、興味深いでしょう。