今さら離婚はできない。かといって四六時中一緒の生活は窮屈すぎる。悪戦苦闘の末、快適な距離を見いだした夫婦の暮らしとは──

何にしても一言言わないと気が済まない

定年を迎えた夫と、一日中顔を突き合わせていることでストレスがたまり、あげくの果てに体調まで崩してしまう──。「主人在宅ストレス症候群」などといった病名まで作られるくらい、妻にとって定年後の夫とは厄介な存在のようだ。本来なら、あくせく働くことや子育てから解放され、人生で一番のんびりできるはずのこの時期。波風を立てず、平和に夫婦生活を続けていく方法はないものだろうか?

「夫が定年退職した直後は、毎日がイライラの連続でした」と言うのは、夫と2人暮らしの良子さん(仮名=以下同、60歳)だ。良子さんの夫は長年バス会社に勤務し、一昨年、無事にその日を迎えた。

「『退職したら日本一周旅行でもするか』とかさんざん言っていたくせに、現実はテレビの前でゴロゴロするばかり。朝ご飯を食べたと思ったら『昼飯は何だ?』。お昼ご飯を食べたと思ったら『晩飯は何だ?』。しかも汚れたお皿を下げることすらせず、目の前にある新聞やリモコンもいちいち私を呼んで取らせる始末。まるで赤ん坊です」

腰痛のため、15年間勤めたパート先を55歳で退職した良子さんにとって、一人娘が結婚した後は、「安息の時間」になるはずだった。

「平穏とはほど遠い生活でしたよ。ダラダラするだけならまだしも、夫は、私が大好きな韓国ドラマを観ていると『どこが面白いんだ。くだらん!』といちいち横槍を入れ、友人と電話をしていると『笑い声がうるさい』と嫌みを言う。私のやることなすことが気になるらしく、何にしても一言言わないと気が済まないみたいです。要するに暇なんでしょうね」

夫の良子さんに対する言いがかりは、日を追うごとにエスカレート。ついには深夜、「お前のいびきがうるさくて眠れない」と起こされるようになった。実際に大いびきをかいているのは夫のほうなのに……。

 

1階と2階の別々生活で平和に

「このままではストレスで体調を崩してしまうと、他県に住む娘にグチをこぼしたら『家の1階と2階で別々に暮らせば?』と言われて。確かに上の2部屋は、実質空き部屋状態。一部屋は娘夫婦が里帰りしたときのために空けてありますが、もう一方は物置にしていました。なるほどと思い、そこを片づけ、私の部屋にすることにしたのです」

1階の寝室から自分の布団や衣類を運び込み、ディスカウントストアで小型の液晶テレビと一人用テーブルセットを購入。夫には「私が騒々しいせいで迷惑をかけているようですから、今日から上で生活します」と宣言した。夫は憮然としていたが、自身の言動が発端なだけに何も言えない様子だったという。

「現在、食事だけは一緒に摂っていますが、それ以外は別行動です。顔を合わせる機会が減るにつれ、私のストレスも激減しました。何より好きなドラマを静かに観られることと、邪魔されずに眠れることが嬉しくて。掃除は『1階の居間と寝室はあなたのエリアだからね』と任せていますし、洗濯物も夫の分は取り込むだけで居間に置き、自分で畳んでもらっています」

まさに“プチ家庭内別居”を実践中の良子さん。1年たった今では、お互いに生活のリズムができつつあり、会話は減ったものの、ムダな言い争いもしなくなったという。実際、中高年の妻に話を聞くと「せめて寝室だけでも分けたい」という人が少なくない。自分だけのスペースの確保は、精神安定のためには欠かせないものなのだ。

顔を合わせる機会が減るにつれ、私のストレスも激減。邪魔されずに眠れることが嬉しくて(良子さん)