三十代半ばの曽野綾子さん。1966年9月16日撮影(写真:本社写真部)
「人生の最期を迎えるにあたり行うべきこと」といった意味を指し、2012年の流行語大賞トップテンにも選ばれた言葉、「終活」。お墓や葬儀の準備、不動産やお金の取り扱いなどに加えて「家の片づけ・整理」もその対象に含まれるものの一つ。1931年生まれの作家、曽野綾子さんは、「人生の最期に何も残さず、跡形もなく消えたい」と考え、身のまわりの整理を進めてきたそうです。その「ものを手放す情熱」の背景にあるものとは。

私は突然と言いたいほど、整理が好きになった

私は子供の頃、少しもきちんと整理のできる小学生ではなかった。

自分の居室で、ものを片づけることなど考えたこともない。もっとも今ほど、子供部屋にもものは多くなかったが、私の家には戦前にはお手伝いさんがいたから、適当に片づけておいてくれたのだろう。

結婚して、親の家に同居ではあったが、一応自分の小さな家庭を経営していかなくてはならなくなっても、私は駆け出しの作家生活を始めていて、いささかの原稿収入はあったものの、当時は書くだけでエネルギーを使い果たし、ほかのことに時間も気力も使えなかった。

今度は母が適当に、家の中で散らかっているものを始末しておいてくれた。母は私と違って料理も裁縫も達者な人で、度の過ぎた潔癖症だと思われるくらい、掃除もゆき届いていた。

いつ頃から、私の性格が変わったのか私にはわからない。そうなったのは母が亡くなった後の、五十代のいつかだったような気がする。私は突然と言いたいほど、整理が好きになりうまくなった。