プロの指導についていくことが最善の策

一方、病院のスタッフから見た当時の僕の印象は、「リハビリへのやる気が高い」、「落ち込まない」でした。

「話すことができず、運動麻痺も結構強い。リハビリではその2点で苦労していましたが、僕の印象では出口さんは非常にやる気があって、ハートが強かった。社会的な地位のある人が突然脳卒中になってこれだけのダメージを受けたら、普通は精神的にガクッときてしまい、うつの傾向が出てきます。自分でできていたことが、まったくできなくなってしまうからです。しかし、イライラすることもなかったし、回復に結び付くことであれば、自分から積極的に取り組んでいました」(鈴木暁(さとる)医師)

「理学療法のリハビリは出口さんにつきながら、別のリハビリスタッフと一緒に相談しながら行っていたので、もしかすると本人が不安になるようなことも耳に入ったかもしれません。普通は不安を感じて『それってどういうこと?』と聞かれる場合もあるのですが、出口さんは終始『任せているから君たちの言う通りにやるよ』という態度でした。リハビリでは指示したことができていないとき、言葉を選んで患者さんに『できていません』と伝えることがあります。それで落ち込んでしまう人は多いのですが、出口さんはそれでも落ち込みませんでした」(樗木(おてき)慎也理学療法士)

僕はAPUの学長職に就く前のライフネット生命保険株式会社で働いていた時も、仕事は「元気で明るく楽しく」をモットーにしてきました。リハビリも辛く厳しい表情でこなすのではなく「元気で明るく楽しく」です。

理学療法士はリハビリのプロなのですから、指導は任せます。プロに任せた方が合理的ですし、リハビリもスピードアップされます。僕の仕事上のもう一つのモットーは「スピード重視」でした。

プロの指導についていくことが最善の策です。迷いはありませんでした。

※本稿は、『復活への底力 運命を受け入れ、前向きに生きる』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。


復活への底力 運命を受け入れ、前向きに生きる』(著:出口治明/講談社現代新書)

脳卒中を発症してから1年半。歩くことも話すことも困難な状況から、持ち前の楽観主義で落ち込むことがなく元気にリハビリ生活を送った出口さん。知的好奇心は衰えるどころか増すばかり。学長復職を目指す、講演を行う、再び本を執筆することを掲げ、自分を信じ闘病に励む稀有な姿勢と超人の思想は、私たちに生きる勇気を与えてくれる。本書には類書にない希望が満ち溢れている!