出汁はとらなくてもよい
『一汁一菜でよいという提案』で、具沢山の味噌汁なら出汁をとらなくともよいというのは、全ての具材から、この頃は野菜に切れ端から取るベジダシ(野菜だし)と言われるもののように、鰹や昆布のように、何かしらの旨味のある水溶液が出るのです。「日本食とは鰹節や昆布の旨味の文化だ」と思い込まされてきましたが、味噌汁がだし汁を取らないと作れないとすれば、作る人は少なくなるでしょう。味噌汁は、世界のスープがそうであるように、お水で十分です。すべての料理は自ら始まるのです。ご飯のおかずになるような、濃い旨味を求めるなら、食材を油で炒めたり、脂のある肉を入れればいいのです。
私たちは、おいしさばかりを食べ物に求めてきましたが、そろそろ考え方を改めたほうが良いと思います。
一番大切なことは「作って食べる」です。それが人間を人間たらしめるのです。一汁一菜をさっと作って食べる、そしてさっと片付ける。かっこいいと思いませんか。日常はそれでいいのです。しっかり生きていると実感できます。
時間的に余裕のある日曜日に、ご馳走を作って食べればいいのです。それは楽しみ、「ハレの日」の料理です。大体和食にはメインディッシュなんてないのです。仕事や勉強で忙しい普段は、一汁一菜でいいのです。だから、何も考えないで味噌汁さえ作ればいいのです。
食事とは、料理して食べることです。そこに料理する人と食べる人の関係が生まれます。自然と人間の間にあるのが料理ですね。私たちの暮らしと地球は繋がっているのです。女性は暮らしと繋がっているといいましたが、暮らしとは地球の暮らしです。私たちの暮らし方が未来と繋がっているのです。まだ、希望はあると信じます。
『一汁一菜でよいと至るまで』 (著:土井善晴/新潮新書)
料理に失敗なんて、ない――レストランで食べるものと家で食べるものとを区別し、家庭では簡素なものを食べればよい、という「一汁一菜」のスタイルを築いた料理研究家・土井善晴。フランス料理、日本料理の頂点で修業を積んだ後、父と同じ家庭料理研究の道を歩む人生、テレビでおなじみの笑顔にこめられた「人を幸せにする」料理への思い、ベストセラー『一汁一菜でよいという提案』に至るまでの道のりを綴る。