我はこの森の王なり

その気になって探せば、あちこちにいた。木の枝の上から、こちらを見下ろしている。ライトが当たると目を光らせ、次の瞬間には枝の上を走って闇に消えていく。夜の森の中で、ネズミキツネザルたちに監視されているようなそわそわした気分になった。

『カラー版-へんてこな生き物-世界のふしぎを巡る旅』(著:川端裕人/中公新書ラクレ)

「見ろ!」とガイドが指差すので、何かと思うと、「ピグミー!」と押し殺した声を上げた。滅多に目撃されないピグミーネズミキツネザルだというのだが、遠すぎてぼくにはよくわからなかった。

それより、気になる「ハイイロ」の個体に出会った。ライトを当てても逃げない。明るい望遠レンズを通して観察すると、大きな目をさらに見開いてこちらを直視しており、不敵な印象を受けた。「我はこの森の王なり」とでも言っているかのようだ。

【写真】まるで「我はこの森の王なり」と言わんばかりのネズミキツネザル(写真:著者)

 

マダガスカルで一番小さなキツネザルが、同族の「使い魔」たちを駆使して森を支配している、と妄想を抱いてしまった。この時に撮った写真は、後に現像したところ、手ブレでまったく写っておらず、なにか化かされたような気分にもなった。

「王」が去った後、ぱったりとネズミキツネザルを発見できなくなった。かわりにもっと大型のフォークキツネザルやイタチキツネザルに次々遭遇した。それは翌日も同じだった。本当に多くの目に見つめられたあのわずかな時間は何だったのだろう。