ぼくらが知っている意味での昆虫ですらない

リトルバリア島のものとは種が違って、「クック海峡ジャイアントウェタ(Deinacridarugosa)」と呼ばれていた。リトルバリア島のものよりも、ずんぐりむっくりしていて、手足が短い印象だった。

【写真】モウド島で出会ったジャイアントウェタ。がっしりとした体格で装甲のような首周り(写真:著者)

ぼくが出会ったのは、それほど大きな個体ではなかった。それでも体長6センチあまり。脚まで含めると10センチ超。飛べないのはその姿から一目瞭然で、そもそも翅がない。およそ2億年前から姿をあまり変えていないとされ、バッタ類の祖型に近い特徴を持っているという。

最初は死にかけているのかと思うほど動きが鈍かったが、地面に置くとゴソゴソと歩き始めた。

下生えの中を進む姿は、その質量感のせいもあって、やはりバッタというよりはネズミ……。魔法みたいだ、と思った。

そいつはもはや、ぼくらが知っている意味での昆虫ですらない。ニュージーランドという隔離された陸塊の上で進化したまったく新しい役割の生き物なのである。