台詞と歌の世界をつなぐ、「音楽の物語り」の機能

これは映画という表現形態の例だが、舞台のミュージカルでも、しばしばこれに類するものがある。登場人物たちが時間的・空間的に、または心情的に離れているなど、物語進行上の何らかの断絶を音楽によって繋ぐという場面である。

ここで目を向けたい要素は、台詞世界と歌の世界を繋ぐ“音楽そのもの”、つまりアンダースコアの役割である。その機能をここでは「音楽の物語り(ストーリー・テリング)」と呼んでおこう。

この視点を加えると、ミュージカルが体現するリアリティ世界は、台詞で展開される次元、登場人物自身の歌によって展開される次元、それに加えて音楽の語りによって展開される次元の三つとなる。

つまり、台詞は物語世界内のものであるが、アンダースコアの音楽は観客にだけ聴こえる非物語世界にあり、歌については、詞は台詞と同等に物語世界内にありながら、その旋律と伴奏はアンダースコアと同様に非物語世界に属する(劇中歌や劇中ショーは物語内の音楽である)。

歌は物語内世界と物語外世界の要素を同時に併せ持っていると解釈できる。つまりミュージカルの台詞・歌・アンダースコアは物語世界内外のリアリティを複層的に含みこんでいる。そして、映画で画面が切り替わる断絶を音楽が繋ぐように、ミュージカルにおいても、異なる次元で展開しているドラマを音楽が繋ぐのである。