ミュージカルではなぜ突然歌い始めるのか――(写真提供:PhotoAC)
国内のミュージカルでは、東宝演劇、宝塚歌劇団や劇団四季などで上演される有名作品は、相変わらずチケットが取れないほど人気です。昨今では、マンガやゲームを原作とした2.5次元ミュージカルへの注目も高まっています。一方で、いずれも役者の台詞に加え、合間に歌が挟まれながら話が展開していくため、それが苦手だと言う声もしばしば。立命館大学文学部教授の宮本直美先生によればミュージカルの中の”歌”は、台詞と同等の存在とのことで――。

台詞で進行する世界、歌で進行する世界

ミュージカルのストーリーと音楽の関係を『ドラマとしてのミュージカル』で論じたスコット・マクミリンは、台詞で進行する台本の時間(ブック・タイム)と、その流れを止めて歌のナンバーがドラマを動かす時間(リリック・タイム)とを区別したうえで、ミュージカルというものは二つの異なる次元の時間によって成り立つものだと述べている。

台詞から歌に、あるいはその逆に移行する際に生じるそれぞれの時間の「中断」こそがミュージカルの本質であって、それが表現の幅を拡張する契機であると考えているのである。

マクミリンのミュージカルにおける二つの次元という視角はここでも共有したい。しかし本書では、その二つの次元を「時間」という線的な方向性を持つ概念で捉えるのではなく、台詞と歌という表現法の違いが成り立たせているリアリティ世界という見方をしよう。

『ミュージカルの歴史――なぜ突然歌いだすのか』(著:宮本 直美/中公新書)