音楽の果たす大きな役割

映画論においてはアンダースコアの重要性が指摘されるが、その音楽は観客によって意識的に聴かれるものではない。つまりコンサートで音楽を集中して鑑賞するようには聴かれず、あくまで主要な役割は映像にあるということである。

ミュージカルにおいても、ナンバーとなっている歌以外の音楽が意識されることはほとんどない。しかしその音楽は、台詞と歌で進むドラマの中で大きな役割を果たしている。

これらの三つの次元を、ミュージカルが成立する前から、種々の音楽劇は調停してきた。

 

※本稿は、『ミュージカルの歴史――なぜ突然歌いだすのか』(中公新書)の一部を再編集したものです。


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物語と台詞、そして歌で成り立つ舞台、ミュージカル。ヨーロッパの歌劇と大衆的な娯楽ショーをルーツに、アメリカで誕生した。本書は娯楽ジャンルとして成長してきたミュージカルの本質を、音楽に注目して探る。オペラとミュージカルの違い、楽譜やレコードによる流通、ティン・パン・アレーの音楽供給システムとの協同、ポピュラー音楽の流行との連動とずれ、映画やドラマの劇伴音楽との異同を視野に入れて立てる「なぜ突然歌い出すのか」という問いは、言葉と音楽という古くからの問題の新しい地平を拓く。