日本では「歌える」という一般的な評だけで、ミュージカルで演じられると判断されることがあるが、必要とされる歌唱力はかなり高度化している(写真提供:PhotoAC)
東宝演劇、宝塚歌劇団や劇団四季など、日本でも高い人気を持つミュージカル。歌いながら笑い、泣き、怒り、叫ぶような高度な歌唱力が演者には求められますが、歌の中で感情を表現するという意味ではオペラも同じです。しかし立命館大学文学部教授の宮本直美先生によれば、それぞれの歴史を辿れば、両者には違いがあることが分かるそうで――。

ミュージカルに使われる歌声の変遷

20世紀半ばまでのミュージカルに使われる歌声は、オペレッタ的なクラシックに近い発声か、ジャズなどのポピュラー音楽で使われる地声であった。

黄金期の名作とされている作品では、ヒロインは裏声を使うことが多い。それは古き良きアメリカ版オペレッタによくあった歌声である。

オペラ歌手ほどの技巧は必要とされず、無理のない音域で素朴さの感じられる歌声、だからこそ歌詞が聞き取りやすい声である。