演者に求められる歌唱力が、高まっている

『ミュージカルの歴史――なぜ突然歌いだすのか』(著:宮本 直美/中公新書)

音楽の存在感が増したミュージカルで演者に求められる歌唱力は、声量だけではなく、表現力の面でも高まってきた。日本では単に「歌える」という一般的な評だけで、ミュージカルで演じられると判断されることがある。

しかしミュージカルに必要な歌唱力は、現在ではかなり高度化しており、どのようなスタイルで、どのような声で、どのように表現できるかが問われるようになってきている。

演目によって俳優は時にオペラのような歌唱を求められ、時にフォークや、ロック、ポップスのような、そして最近ではヒップホップの様式に応じた歌唱法が求められる。そこには相応の声質と発声も含まれる。

たとえばブロードウェイのオーディションでは、作品や役柄に応じて歌唱スタイルや声質の要件が明示されている。近年の新作に求められる声の多くは「ロック/ポップ歌唱」であり、「クラシック」の裏声発声は《オペラ座の怪人》の歌姫クリスティーヌ役など、かなり限られている。

現在では一般的に、ポップスでよく聴くような地声かミックス・ボイスの声、要するに中低音から高音まで声質を(地声から裏声へ)変えずに歌える声が求められる。