ミュージカルで使われる「声」の種類が増えた
1960年代以降にロック・サウンドが導入された頃、ミュージカルの歌声にも変化があった。それはまず《ヘアー》、そして決定的には《ジーザス・クライスト・スーパースター》に見られる。
イエスとユダのナンバーにはそれぞれ絶叫する箇所がある。歌い手の表現によってどの程度の絶叫かは異なるだろうが、おそらくこれも当初は「うるさい」と感じられた新しいサウンドだろう。それは60年代のロック・コンサートでは一般的になっていた歌唱法である。
ロック・ミュージカルによってシャウトなどの表現が劇場の中に登場した。これはミュージカルで使われる「声」の種類が増えたということでもある。歌詞を自然に聞かせることが第一に求められるはずの演劇ジャンルの中に、声をわざと歪ませる表現法が入ってきたことが示すのは、ミュージカルが激しい感情の爆発を含むようなドラマを作り始めたということである。
ロック歌唱だから絶叫するのではない。ロック的な絶唱が適しているような場面を持つ音楽ドラマが生まれたのである。メガ・ミュージカルに多く見られた壮大な題材も、こうした声の表現に関わっている。