(撮影:長野陽一〈水だんご〉高木あつ子〈バターもち〉)
日本の食文化は、地域によって気候風土が大きく異なる自然豊かな日本列島で育まれてきました。食が多様化するいま、1960〜70年頃に食卓にのぼった全国のふるさとの味をまとめた『伝え継ぐ 日本の家庭料理』という全集が話題になっています。前号に続き、企画編集を行った日本調理科学会会長(当時)の香西みどりさんの解説とともに、各家庭で親しまれてきた小麦と米類を使ったおやつの一部を紹介します(構成◎本誌編集部 撮影◎高木あつ子〈バターもち、あさづけ、みょうがの葉焼きご飯、笹だんご、炭酸まんじゅう、おやき〉、奥山淳志〈かますもち〉、長野陽一〈いがまんじゅう、水だんご〉)

60年代を境に米の消費量は減少傾向

高度経済成長期を境に、1960~70年頃の日本では電気や水道、ガスなどのライフインフラが整い、台所の環境が大きく変わりました。2口コンロのあるダイニングキッチンが登場し、冷蔵庫の普及で食材の長期保存が可能に。

便利さと引き換えに消えていく料理が増えるなか、後世に残すべき味は残さなければと、2012年から約360人の日本調理科学会会員が47都道府県の各地域で地元の方々にご協力いただき、聞き書き調査を始めました。それを「おすし」「魚のおかず」などテーマ別にまとめたのがこの全集です。

テーマ別にすることで、同じ「ばらずし」という名称でも、作り方や見た目、味付けの相違や特色が見えてきて、全国の食文化を俯瞰することができました。

前回は魚介類を使った料理を紹介しましたが、今回は小麦と米類を使ったおやつを取り上げます。

当時のおやつには、特別な日のための手のかかるメニューがある一方、農作業などの労働の合間に手早く作れて、腹持ちのよい間食としての役割もありました。必ずしも箸を使わずに食べられるものが多いですし、甘い味だけでなく、塩気を楽しむおやつも含まれています。

材料として牛乳と卵を使うものは少なく、味付けのメインは醤油、砂糖、味噌。電子レンジやオーブンはまだ一般家庭に普及していませんから、調理法が蒸す、茹でる、焼くのいずれか、というのもこの時代の特徴です。

そもそも、食事の傾向として現代と大きく異なるのは1人当たりの米の消費量でしょう。パンや麺類など、米に代わる主食の選択肢が増えたため、60年代を境に米の消費量は減少傾向を辿っています。いまはピーク時の約半分。1人当たり、1日1合を切る程度の消費量、と聞くと皆さんも納得されるのではないでしょうか。

米を最も消費していた時代ということもあり、米どころでは米類を使ったおやつが、米作りに適さない地域では小麦を使ったおやつが親しまれていることがわかります。

米粉を使ったおやつはだんごかもちをアレンジしたもの。いずれも時間の経過とともに必ず硬くなります。調理の際、水と熱を加えることで米のでんぷんが糊化するので、できあがりはとてもやわらかくておいしい。しかし、時間の経過や温度の低下によってでんぷんの間にある水が押し出され、でんぷん同士が近づくことで一部が生でんぷんのようになり、硬くなるのです。

これを抑えるため、生地に必ず加えるのが砂糖。砂糖以外にも、別の副素材を混ぜる工夫が見られますが、たとえば笹だんごのよもぎ、バターもちのバターもそれにあたるでしょう。