戦時中、参謀だった講師が話し始めたこと

いまから30年ほど前のこと。そのとき住んでいた地域で行われた「暮らしの発明品」の講習会に参加した。裁縫が好きだった私は、便利小物の発明を考えていた。講師は80代くらいの男性で、「個人指導もしています。ぜひ事務所に来てください」と親切だった。

特許出願書類の作り方を教えてもらうために電話を入れると、快く招いてくれた。約束の日、心も弾み事務所へ。真夏の暑い日で冷房のきいた部屋に通されてほっと一息。「先生、ご多忙のなかお時間をありがとうございます」と丁重に挨拶すると、「どうぞお座りになって」と促される。

「僕はですね、戦争中は参謀でした。軍人社会は私たちの作戦で全体が動くんですよ。日本のトップの大学の卒業生が集って戦略を立てるんですね」とニヤリと笑った。

「そうなんですか」と返答はしたが、心中はおだやかでない。どうして戦争の話をするの?

「海軍でしたから、側近の情報を集め、十人ほどで大きなテーブルを囲み、模型を動かしながら激論をしましたよ」「懐かしい。あの頃はよかった」と一方的に語る。

初めは感情を抑えていた私だが、次第に気持ちが昂ってきた。戦死した兄、命を落とした兵隊たち、焼け野原となった町、惨状が目に浮かぶ。もう限界だ。