(イラスト:星野ちいこ)
2022年、終戦から77年が経ちました。戦争を知る世代が高齢化し、生々しい戦火の記憶が薄れつつある日本。一方、世界に目を向ければ、ロシアのウクライナ侵攻のほか、紛争が長期化している国もあります。戦争がもたらすものは、どれほど悲惨なのか。当事者しか知らない、生々しい事実――青田久美さん(仮名・84歳)がウクライナのニュースを見て思い出す、子どもの頃に体験した戦争の記憶とは。

わら草履、さつま芋……疎開先の暮らし

長年体調を崩していた夫を亡くして一人暮らしになり、終のすみかを求め、1年ほど前にこの町に引っ越してきた。新型コロナのせいで身内や友人と交流できず、寂しく窮屈に感じる日々。

心の隙間を埋めるため、テレビをつけると、ロシアによるウクライナ侵攻のニュースばかり。爆撃と破壊、人々の逃げまどう姿に胸が締めつけられ、いますぐ戦いをやめてほしいと強く願う。

朝早く目覚めて、窓から外を眺めていると小鳥の鳴く声や咲き誇る草花に癒やされ、自然の豊かな恵みに気づく。ふと箪笥の上の、結婚式の引出物としてもらった小型の地球儀が目に入り、手に持ってベランダへ出た。

「お天道様、人類は不安に陥っています。ウイルスも戦争もなくしてください」と言いながら、地球儀を右手でクルクルと回した。突然、こんな《儀式》をした自分に我ながら驚いてしまったが、鬱屈した気持ちを晴らしたかったのかもしれない。

翌日のニュースではウクライナの防空壕にいる子どもたちの姿が映っていた。私の子どもの頃の心細かった体験と重なり、涙が溢れて止まらない。