寄生虫が体に宿るのも辛抱するしかない

父は母子三人を送り届けると、大阪へ戻った。六畳一間の暮らしで、二つ年上の兄とは狭い部屋でけんかもした。母と野草を摘んだり、空き地を借りて野菜を作ったり。何より幸せに感じたのは、爆撃音に怯えなくていいことだった。

学校に行くと、女子生徒の頭に白い点々がついている。「なぜみんな白い点があるの?」と聞くと、「これはね、頭のシラミ」。「私も同じようにつけたいわ」と言うと、「すぐうつるよ」と言うので楽しみにしていた。

ところがその後が、さあ大変。頭に真っ黒なシラミが寄生して、卵を産む。白い点は小さな卵のツブ。「お母ちゃん、かゆいよ~」と泣きつくと、母は「ほら、新聞紙を広げて梳き櫛ですくのよ」と教えてくれた。1~2ミリくらいのシラミがパラパラと大量に落ちる。手で押しつぶすと、吸われた頭皮の血が新聞に赤くにじんだ。しばらく辛抱するしかなかった。

その頃は衛生状態が悪く、お腹に回虫も寄生した。授業中、急に肛門がムズムズする。これはいったいなんだろう? 休み時間のベルが鳴ったとたん急いで便所に駆け込む。自分の股の間をのぞくと、白くて長細い虫が垂れ下がって動いていた。思いきり気張る。当時の便所は汲み取り式で、下を見ると7~8ミリほどの回虫がはねまわっている。

寄生虫が体に宿るのも辛抱するしかなかった。その後、シラミは外国から輸入された殺虫剤の普及で消えてくれた。