「未来には平安がやってくる」と信じたい
「先生は、戦争がどんなにつらく悲しいものかご存じないのですか?」
「……」
「立派な大学を出て、高い地位に就かれた。しかし、私の兄のように立場の弱い兵隊はどうですか? 戦場で死体となり、腐乱して《骨無し》ですよ。先生は安全なところにいたけれど、大多数は人間としての扱いをされず、兵器の一部にすぎない。大切な兄、叔父も戦死して私も不自由な生活をしました。こんな話を聞くのは戦死した兄に申し訳ありません。帰ります」
ビルの5階の事務所から、エレベーターを使わず階段を駆け降りた。憤慨が止まらなくて、公園のベンチでしばらく泣いた。なんとか自宅に帰りつき、ゆっくり考える。
今日は終戦の日だ。先生も戦争の思い出に興奮していたのかもしれないし、事実かどうかもわからない。私のような年寄りで金のない女の手伝いをするのが嫌だったのかも……。あれこれ思いを巡らして気持ちを落ち着かせた。
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最近は地域にも馴染んできた。マスクをつけて福祉センターの集いに参加し、人々と語り合い、笑い合う。すると孤立感が失せて気持ちが安らぎ、心にやさしい小花が咲く。この先、浮き沈みもあるだろうが、一日一日を大切に、食を楽しみ体を動かし、平和を願おう。
また小さな地球儀をベランダに持ち出して、クルクルと回す。「少し心が落ち着きました。きっと戦争がなくなることを信じます。信じたいです」。
お天道様が「そうか、そうか、よかったね」と言ってくださるように思った。「未来には平安がやってくる」と信じたい。