イラスト:三好愛
〈8月12日発売の『婦人公論』9月号から記事を先出し!〉
2021年10月、居酒屋から帰宅した島村洋子さんは突然左手足が動かなくなり、救急搬送された。脳梗塞だった。このまま外に出られなくなったらという恐怖を抱えてリハビリに励み、杖を頼りに外出を心がける。この10ヵ月の日々を綴った

「左手足が動かない!」島村さんの脳梗塞発症時の記事はこちら

利き手ではない左手を軽んじていた

このところ私は週に2回訪問リハビリを受けている。ひとつはOT(作業療法士)と、もうひとつはPT(理学療法士)と、のそれぞれ40分である。

入院中はOTとPTの違いはもちろん、なぜリハビリの人が何人もやって来るのかすらわからなかったが、作業療法は生活する上でのこと、服の着脱や料理や事務仕事、メールを打ったりボールを投げたりなどの主に手を使う練習で、理学療法は立つ、座る、身体の向きを変える、歩くといった身体全体を動かす練習である。

入院当初はここにST(言語聴覚士)も加わり、発音や発声、言語がすぐに出るかのテストがあった。

言語についてはおおむね問題がなく2回ほどで終わったのだが、「野菜の名前を思いつくだけ言ってみてください」とか簡単な絵を見せられて「これはなんですか?」と尋ねられたりするので幼稚園の入試を思い出し、もしかして私の状態は自分で思っているより悪くて、みんな黙っているけどヘンテコなことを言っているのかもしれないと恐れた。

言語野に障害が出たバイリンガルの人の中にはリンゴの絵を見せられても「リンゴ」という単語が出て来ないのに「アップル」は思い出せた人もいた、という話も聞いて、厳密には脳の同じ引き出しに同じ意味を持つ単語をしまっているわけではないということを興味深く思った。

入院して2日目、見舞いに来てくれた姉に髪の毛をゴムで束ねてもらい、ゴムより先をばっさり切ってもらった。もう髪の毛をセットしたりヒールのある靴を履いたり着物を着て草履を履くなんて生活は、自分には訪れないのだろうと考えたからだ。

作業療法の際はまったく動かない左手がぶらぶらしていると危ないので、骨折した人のように三角巾で吊すことからスタートする。そのあと輪投げの輪を持って棒に刺したりお手玉を掴むというようなことを繰り返した。