杖で毎日病院の廊下をぐるぐる回り、階段を登り続けて約2ヵ月。年末に家に帰って来た。
要介護3の認定を受けた私は、介護保険を使ってトイレや風呂に手摺りをつけた。病院では座ったまま風呂に入れて、背が浴槽の面と合体する車椅子なども見たが、手摺りだけでなんとかなりそうなので戻って来たのだ。
膝はまだカクカクするし、左手の握力はほとんどないのでペットボトルも開けられないし、顔の半分は痺れているが、それでも杖をつきながら外出するようにしている。
席を譲ってくれる人やエレベーターを優先的に乗せてくれる人も多く、嫌なニュースばかり聞くけれど世の中は優しい人がたくさんいるとわかる。
ただ困るのはエスカレーターである。何しろ左手に力がないのでエスカレーターのベルトを左手で掴むことができず、どうしても右に寄ることになる。
右側を歩いて追い越そうとする人がたくさんいて、なんでこいつは逆側にいるんだよ! と口にはしないが怒っている様子の人もいる。いやね、左に寄れるものなら私だって寄りたいんだ、杖も持ちたくない、そしてエスカレーターでは歩かないでくださいってポスターも貼ってあるじゃん、と言いたいところだが仕方ない。そもそもそこを急いで何分の節約になるんだ。
とはいえ私もお釣りをしまったり切符を買うのにもたもたする人にイライラしたことはよくあった。考えればその人だってさっさとやりたいけれど手が動かなかったかもしれないのに。
自分だけはいつまでも若く元気だと過信していたのだ。
誰だって病気や事故、あるいは老化のために動けなくなったり障害を負ったりする日は来る。スマホを見ながら突進して来る人に恐怖を感じている体の不自由な人やお年寄りはいっぱいいることだろう。
その人たちは特別ではなく、誰にとっても未来の自分だと考える想像力があるだけでもずいぶん日常生活が良くなっていくのだと思う。