子ども向けの作品に初チャレンジ

現在上演中の舞台『さいごの1つ前』は、子どもが観ることを前提とした芝居です。子どもを意識した作品に出るのは初めて。子どもたちに見てもらえると思うと、稽古中も楽しくなってつい笑顔に。

私自身には子どもはいないけれど、実は子どもが好きなの。子どもの姿を見ると、自分の精神が、ふわりとそこに降りていく。だからつい声をかけたくなっちゃうんだけれど、昨今、知らない子どもさんには迂闊に声をかけづらくなっている世の中。怖がらせないように、ぐっとガマンです。(笑)

その代わり、そのかわいらしい子どもたち向けに何かできないかなと常々思ってきました。ですから今回、声をかけていただいて飛びついちゃったんです。

私が演じる女性は、年齢を重ねて、ちょっと記憶が曖昧になってきているの。それで、天国と地獄の分かれ道で、立ち往生をしている。小学生を意識している作品とはいえ、「生と死」を扱っていて、一種、哲学を思わせる内容なんです。観ているときは楽しいけれど、大人になってから思い出して、「あれはこういう意味だったのか」と気づいてもらえればいいというか――。

もちろん大人が観てもとても面白い芝居だし、私くらいの年齢の人間にとっては、切実な内容なんじゃないかしら。私自身、この物語は身に沁みます。

演劇にとって「生と死」の問題は、唯一無二のテーマと言っても過言ではないと思います。演劇だけではなく、映画もドラマも、究極的にはそうなんじゃないかしら? それにしても『さいごの1つ前』って、意味深なタイトルですよね。もう1歩で危ないところに行くのに、1つ手前でとどまればなんとかなる、といった意味も含まれているような。稽古をしながら、そんなことを考えています。

今回は、子どもがパッと飛びついてくれる演技をしなくてはいけない。でも私はこれまで、女王とか巫女とか怖い女とかばかりをやってきていて。様式的な演技の回路はできているけれど、日常的な表現は、今の若い人たちから勉強するつもりです。

ですから今回は、芝居から離れた日常のズッコケた私みたいなものを、どう素直に出すかを目標にしました。なかなか難しいけれど、80にして新しいチャレンジ。ワクワクします。