「芝居の世界に入って、素敵な人たちに巡り合ったあの頃は、誰に話しても恥ずかしくないくらい輝いていたと思います。」

人生最高の思い出は演劇との出会い

この芝居のなかで、天国の門の前に立った主人公が、人生で最高の思い出は何かと聞かれます。私自身がその質問をされたら、どう答えるのかなぁ、と考えます。

私は子どもの頃から演劇に憧れていて。でも父が早く亡くなったこともあって、演劇への憧れを胸深く秘めて、家計を助けるために区役所で働きました。そして弟が高校を卒業するのを見届けて、25歳のときに、早稲田小劇場に入ったんです。

芝居の世界に入って、素敵な人たちに巡り合ったあの頃は、誰に話しても恥ずかしくないくらい輝いていたと思います。「あぁ、道が開けた!」という感激。恋愛のときめきについて話すのはちょっと恥ずかしいけれど、演劇に関しては堂々と、「あのときは輝いていた」と胸を張れます。

もちろん紆余曲折はあったし、決して順風満帆というわけでもありませんでした。演劇に関して、つらい思い出も苦しい思い出もたくさんあります。でも、ここまで続けてこられたというのは、神様に感謝しないといけないくらいのことだと思う。

『さいごの1つ前』の稽古が始まる直前までは、野田秀樹さん作の『パンドラの鐘』に出演させてもらっていました。この歳になっても次々と作品に呼んでいただけるのは本当にありがたいことなんですが、今回は、公演後に5日間休んだだけなんです。さすがに疲れがとれなくて。そこで初めて自分の年齢を思い出しました。(笑)

年齢といえばもちろん若い頃に比べて台詞を覚えるのが大変にはなってきています。ですからあるときから、台詞を大きな紙に筆ペンで書いて、リビングルームから寝室まで、家じゅうの壁に貼って覚えるようにしています。

今回は時間がなかったので、台本を拡大コピーしたんですけど、やっぱりコピーより書くほうが頭に刻まれるみたい。次はまた、筆ペンに戻るつもりです。