「稽古初日には、恥ずかしいけれど、いつも『加代ちゃんって呼んでくださいね』と言うんです。だって、『白石さん』だと、堅苦しい感じがするでしょう?」(撮影:宮崎貢司)
〈8月12日発売の『婦人公論』9月号から記事を先出し!〉
女優として唯一無二の存在感で活躍を続けてきた白石加代子さん。80歳を迎えた今もなお仕事量は以前と変わらず、休む間もなく舞台に立ち続けている。この夏、初めて子ども向けの舞台に挑戦する意気込みを聞いた(構成=篠藤ゆり 撮影=宮崎貢司)

現場ではいつも最年長

2021年の12月で、80歳になりました。「ええっ! 知らない間にそんな歳になったの? 迂闊だったなぁ」と思って(笑)。私は舞台中心に仕事をしているけれど、ひとつの作品が終わったら次の作品、といった感じで一歩一歩やっているうちに、いつのまにかこの歳に。

芝居をやっているときは、年齢はあまり考えないんです。でもどうもこの頃、まわりの人がパッと手を差し出して支えてくれたり、優しくエスコートしてくれたり。気づけばどの座組に行っても最年長。皆さんに労ってもらっています。(笑)

稽古初日には、恥ずかしいけれど、いつも「加代ちゃんって呼んでくださいね」と言うんです。だって、「白石さん」だと、堅苦しい感じがするでしょう? 気軽に「加代ちゃん」と呼んでいただけると嬉しいもの。「初めは勇気が要ります」って言われたりしたけれど。(笑)

脚本の読み合わせの場では、共演者の皆さんのことを、じっくり見てしまいます。全体像ももちろんだけれど、どういう声をお出しになるのかしら、どんな表情をされるのかしら、なんて。若い方々の新鮮な芝居は勉強にもなりますしね。

今の若い役者さんたちは、日常的な芝居が本当にお上手。感覚でパーッと演じられる。私たち世代は、訓練するなかで、ある高みにまで追い込んでいくスタイルをとりながら毎日少しずつ「こうかな?」と苦しみながら、一段ずつ勝ち取ったものだけど、それはある意味つまらないのかも(笑)。

やっぱり、感性にはかなわない。子どもの頃からたくさん音楽も聴いているし、映像もいっぱい見ているでしょう。豊かな感性が育つ素晴らしい環境が備わっている時代ですよね。