そういえば70代の初め頃、インタビューを受けて「もうそろそろ仕事も減ってくるでしょうから、これからは庭いじりをする予定です」なんて話しました。母が残してくれた家が伊豆にあって、バラのお庭にしたらどんなに素敵かしらと思ったりするんだけど……。ありがたいことに仕事続きで、その庭はほったらかしになっています。(笑)

ただ、仕事が充実しているとはいえ、年齢とともにこの世の苦労はちゃんと身に覆いかぶさってきていて、それは引き受けるしかない。今は夫と2人で暮らしているけれど、80にもなると、もう行く先は見えてる気が。だから人として、それなりに終わりを見据えて、最低限の準備はしておかなくてはいけないんだけれど。

終活とか、断捨離っていうの? ああいうことができたらいいなぁとは思います。しばらくできそうにないけれど。(笑)

80まで生かしていただいたおかげで、たくさんの経験をさせてもらえました。だからこの先、死んでいく道のりには苦労も多いかもしれないけれど、そのなかにおいしい果実もあるのかもしれないな、と。「あぁ、生きるってこういうことだったのか」と教えてもらえるかなぁと思っています。そういう決着をつけて、天国か地獄に行きたいですね。

私は、芝居に憧れ、芝居の世界で生きることを望んだとき、「演劇以外は何もいらない」と思っていました。それは紛れもない本心です。

でも、夫に出会って47歳で結婚して、2人でここまで生きてきた。そういうありがたいことを授けていただいたんだから、「演劇以外何もいらないなんて言って申し訳ございません。神様、ありがとうございます」と言うしかないです。

今は助けてくれる人がそばにいて、本当にありがたいもの。あら、おのろけみたいになってしまったかしら。お恥ずかしい。(笑)


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