今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは『一緒に生きる 親子の風景』(東直子著・塩川いずみ画/福音館書店)。評者は学者芸人のサンキュータツオさんです。

そのキャリアとスキルは誰もが知っておきたい

子育てについて親や経験者に聴くと、驚くほど「覚えていない」という答えが返ってくる。裏を返せば信じられないくらい大変なことや感動的なことが毎日やってくる、けれどとても覚えている余裕はないほど、お母さんも子どもと一緒に、毎日が「はじめて」で満たされているということだろう。

この本は、歌人で小説家でもある東直子さんが、年子のお子さん二人を育てながら考えたことを、20年ほど経った現在から思い返して書いたものだ。しかしどれもがリアルタイムで育児を経験している人が書いたかのように、そのときの心情をありありと伝えてくれる。

育児をあまり経験できなかった男性や、子どものいない方でも、自分事として考えさせられる。「子育て」というキャリアとスキルを知っておくことは、お母さんたちを孤立させないためにも大事なことだ。

〈育児でヘトヘトになっていた私に、しばらくは刑務所にでも入ったと思って我慢することね、と言われたことがある。当然反発した。悪いことをしたわけじゃないのに、なんでそんなふうに思わなければいけないの、と。〉

当事者への心無い一言は、ひとえに想像力の欠如からはじまっている。これは決して子育てだけに言えることではないはずだ。

だが同時にこの本は、子育ての感動や喜び、そして母親として社会で生きていくことを、軽妙に楽しく表現している。東さんは子育て中に、投稿をきっかけに歌人となった。そんな経歴にも勇気が出てくる。「生き生きと生きないと、人間の価値がないような風潮がある」と、疲れた人たちに、それでいいんだよと軽い気持ちにさせてくれる。

全篇にわたってカラーの挿絵が入り、絵本のように、ページをめくる楽しさがある。お母さんたちには、自分と、あの頃の自分とで、一緒に読んでもらいたい。