「父は豪快な立役の人形遣いでしたけど、日ごろ私を見てて、これは優美な女方を遣う後輩に頼もう、と思ったんでしょうね」(撮影:岡本隆史)
演劇の世界で時代を切り拓き、第一線を走り続けるスターたち。その人生に訪れた「3つの転機」とは――。半世紀にわたり彼らの仕事を見つめ、綴ってきた、エッセイストの関容子が訊く。第7回は人形遣いの桐竹勘十郎さん。子供のころから劇場が遊び場みたいなものだったと語る桐竹さん。生涯の恩師となる吉田簑助師匠とは、生まれたときからの縁があったそうで――。(撮影:岡本隆史)

白い狐が神秘的に見えて

文楽の人形遣いで人間国宝の桐竹勘十郎さん。なぜか狐の登場する演目が大好きで、この四月五月は大阪と東京、二ヵ月続きの『義経千本桜』でも義経の家臣に化けた狐忠信を溌剌として遣い、幕切れには満開の桜の上を悠々と狐忠信と共に宙乗りして、満場の大喝采を受けていた。

──父(二代目勘十郎)が人形遣いですから子供のころから劇場が遊び場みたいなもので、やっぱり動物に目が行きますわね。中でも芝居に出てくる白い狐というのは、何か不思議な生き物で、神秘的に見えたんです。

それからすっかり狐が好きになって、この『千本桜』の狐忠信も、『本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)』「奥庭狐火の段」の八重垣姫も、それから『玉藻前曦袂(たまものまえあさひのたもと)』三段目の九尾の狐とか、『芦屋道満大内鑑』の葛の葉狐とか、狐の出てくる演目はほとんど遣わせていただきました。

しかしまあ、僕は三月生まれですから小学校に入っても他のみんなより幼くて、親の職業は? と先生に訊かれても、「人形持ってあんなんしてこんなんして踊ってますぅ」(笑)。そんな程度でした。