入門前の勘十郎さんは、ひ弱で、絵ばかり描いている少年だった。学校でもいじめられたりすると、2歳近く年上の姉(女優の三林京子さん)がすぐに飛んできてかばってくれた。
──ええ、兄ちゃんみたいな、強い姉ちゃんが(笑)。姉は父の気性とよう似ています。豪快で、涙もろくて。今でも人を集めて賑やかにやってますからね。私はちょっとそういう社交性はないし、一人でウジウジしてるような少年時代を未だに引きずってます。
そのころ、ちばてつやさんの『ユキの太陽』という漫画が大好きで。主人公のユキという女の子が活発でものすごく魅力的だったんですよ。あのころの私は妹がほしくて、もしこういう妹がおったら可愛がってやるのにな、とずっと思ってました。
それで結婚して最初の子供が女の子やったんで、これはもう迷いなくユキにしようと。で、友紀と名づけました。
人形遣いになってよかったな、と思ったのが、その雲の上のちば先生が観に来てくれはったことです。『女殺油地獄』の主役の与兵衛を東京で初めて遣わせてもらった2005年の9月公演で、先生の都合のつく日がちょうど友紀の誕生日、9月14日だった。こんな偶然あるのかと思って、ほんまに嬉しかったですね。