不安なくらいがちょうどいい

でも、簑助師匠からはかなり厳しい目にも遭う。またそれでこそ、恩師と言えるのだろう。

──まあ、見てたら弟子が今勉強してるかサボってるかわかるんでしょうね。ちょっと調子に乗ってるときというのが誰しもあるんで。

ある日突然左を遣うように言われたとき、勉強不足でうまく遣えませんでした。大体、師匠が長いこと苦労して会得したことを、そう簡単には弟子に教えませんわね。「見て、盗め」としか言われない。

それで左をうまく遣えずに、楽屋でしょんぼりしながら何気なく、そのころ凝っていたバイクの雑誌を広げて眺めてました。すると、いつの間にかそこに師匠がいて、「その本に左の遣い方が書いてあるんかっ!」と一喝された。私はもうワッと泣きたいほど恐れ入って、以来楽屋へは趣味の本などはいっさい持って行かなくなりました。

師匠は滅多に言ってくれません。言われ癖がつくと自分で考えなくなりますからね。自分でいつも考えて、不安になってるくらいがちょうどいい。

これだけ遣い馴れてる狐でも、やっぱり出る前に、うーん、今日はこうしてみようかな、とか考えますね。自分が「ハイもうできました、狐はもう世界一です」と思ってしまうと、それで終わりですから。