業界のことなんて何一つわからず、手探りで進んでいくしかなかった(提供:『余白』より)
映画、ドラマ、舞台など、各方面で活躍をしている女優・岸井ゆきのさん。2017年に映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』で初主演を果たすと、2019年の映画『愛がなんだ』では、第11回TAMA映画賞・最優秀新進女優賞を受賞するなど、突出した演技力で高い評価を受けています。その岸井さんが女優になったきっかけは高校を卒業する直前にされた”スカウト”だったそうで――。

スカウトから始まった

高校を卒業する直前に電車の中でスカウトされて、そういう道もあるのか、と事務所に所属することを決めた私は、同い年どころか年下の子たちに比べても、スタートがずいぶんと遅く、さらに業界のことなんて何一つわからず、手探りで進んでいくしかなかった。

「高校生の役を演じるにしても期限があるんだよ(だから焦りをもってがんばりなさい)」と諫めるように言われても、高校を卒業してしまった私の年齢が巻き戻るわけではないし、これからはじめようとする人に遅いなんて言ってもしかたないでしょう、と心の中で受け流すくらいの余裕はあった。

映画に出会い、この仕事に出会うまでは、道に迷い続けていた私だったから、周囲と比べて自分を追い詰めない、決まらないことを焦らない、と自分を落ち着かせる方法をそのころから自然と身につけていたのかもしれない。

自信も技能も何も持っておらず、失うものもさしてなかったからこそ、堂々としていられたし、怯えて諦めるということもせずにすんだ。