あの生活が、今の私の礎

ちなみに私を雇ってくれたのは、イタリアンと、フレンチのレストランと、焼き肉店。のちのち、寿司屋でも働いた。コーヒーの専門学校に通おうとしていたくらいなのでコーヒーショップでも働いてみたかったけれど、めぼしいチェーン店は軒並み面接を受けて、そして、全部落ちた。

日中のシフトが多いせいか、芸能事務所に入っているというだけで、オーディションがあればすぐに休まれると困ると思われたらしい。

パズルのようにスケジュールを組み立て、あのころの私は四六時中働いていた。今とは違う意味で忙しかったけれど、充実していた。そうして無理をしてでも舞台や映画館に通い続けたあの生活が、今の私の礎になっている。

 

※本稿は、『余白』(NHK出版)の一部を再編集したものです。


余白』(著:岸井 ゆきの/NHK出版)

近年、主演作・話題作への出演が続き注目が集まる彼女が、これまで明かすことのなかった30歳の女性としてのあるがままを「いましか手元にとどめておけないもの」として残した、初のフォトエッセイ。53篇におよぶエッセイでは、デビューのきっかけから恋愛や子どもを持つことへの気持ちまで、まっすぐで飾らない言葉で紡がれたものがかり。自然体な表情を切り取った撮り下ろし写真、そして本人秘蔵のスナップで編み上げた、プライベート感あふれる”岸井ゆきののすべてがわかる”一冊。