思い出すほどアドレナリンの分泌を抑えられなくなる

日が経つにつれ、それぞれの行動への不満や不服が溜まってきたのか、「私は本当はこういう団体行動は苦手なのよ」「あら私もよ」などと毒を帯びた会話も増えてくるようになり、私はその場の緊張感をなだめるのに必死になった。

団体旅行に慣れているという穏やかな女性がひとりだけ参加していた。

彼女が旅の終わりに「中国の写真集を買いたい」というので、なぜ中国? と質問をすると「この旅の思い出に」と返されて腰が抜けた。

人任せの団体旅行ばかりしていると、こういうことにもなりかねない、という見本のようだった。

思い出せば出すほどアドレナリンの分泌を抑えられなくなるイタリア人オバちゃん団体旅行引率の記憶だが、日本に数年前のレベルの外国人観光客に戻ってきてもらいたければ、やはり団体旅行客限定という条件を外すしかないだろう。


歩きながら考える』(著:ヤマザキマリ/中公新書ラクレ)

パンデミック下、日本に長期滞在することになった「旅する漫画家」ヤマザキマリ。思いがけなく移動の自由を奪われた日々の中で思索を重ね、様々な気づきや発見があった。「日本らしさ」とは何か? 倫理の異なる集団同士の争いを回避するためには? そして私たちは、この先行き不透明な世界をどう生きていけば良いのか? 自分の頭で考えるための知恵とユーモアがつまった1冊。たちどまったままではいられない。新たな歩みを始めよう!