思い出すほどアドレナリンの分泌を抑えられなくなる

日が経つにつれ、それぞれの行動への不満や不服が溜まってきたのか、「私は本当はこういう団体行動は苦手なのよ」「あら私もよ」などと毒を帯びた会話も増えてくるようになり、私はその場の緊張感をなだめるのに必死になった。

団体旅行に慣れているという穏やかな女性がひとりだけ参加していた。

彼女が旅の終わりに「中国の写真集を買いたい」というので、なぜ中国? と質問をすると「この旅の思い出に」と返されて腰が抜けた。

人任せの団体旅行ばかりしていると、こういうことにもなりかねない、という見本のようだった。

思い出せば出すほどアドレナリンの分泌を抑えられなくなるイタリア人オバちゃん団体旅行引率の記憶だが、日本に数年前のレベルの外国人観光客に戻ってきてもらいたければ、やはり団体旅行客限定という条件を外すしかないだろう。

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