心の落ち込みは実利で回復
運転免許証をかざしても何もいいことはないが、運転経歴証明書をかざすといろいろお得なことがあるのである。例えば、動物園や水族館、博物館などの文化施設ではポストカードやストラップがもらえる。
例えば自主返納サポート協議会に加盟している企業でのさまざまな優待が受けられる。加盟している高級ホテルでのレストランやバーでの飲食1割引き。
デパートでは自宅への配送が無料。スーパーでも即日配達料金の割引き。コンビニでは宅配サービス時にポテトサラダ一個プレゼントとか、高齢者向け宅配弁当のご試食無料券プレゼントとか。
はとバスでは観光コース料金5%割引き。いろいろご配慮すみませんねと言いたくなるほど、あっちこっちで返納ご褒美が用意されていたのである。
その中で、私の目がギラりと光ったのが、ずらりと並んだ美術館の名前。入館料の100円引きから200円引きまで。さらにカフェでの飲食1割引きなどなど。よっしゃ、これで美術館巡りをしてやろうではないか。かつては苦手だった美術館と最近いい関係になっているので、これは実にありがたい。
ズラズラ並んだご利用可能施設や企業名を眺めているうちに、やっぱ返納して正解だったのだと喪失感は徐々に薄らぎ、実際に利用しているうちに完全に消失したのである。
何か、ちょっとゲンキンだなあと思うが、心の落ち込みは実利でけっこう回復出来るものなんですなあ。
(注:本文中で紹介した特典は2020年3月時点の東京都のものです。特典の内容は地域によって異なり、随時変更される可能性があります)
※本稿は、『老いを楽しく手なずけよう――軽やかに生きる55のヒント』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『老いを楽しく手なずけよう――軽やかに生きる55のヒント』(著:吉永 みち子/中央公論新社)
老いの入り口からまっただ中へ、歩みを進める70代。からだと心、お金や暮らし、家族やペットなど気になることは多々あれど、焦らず気負わず、おおらかに、たくさん笑って過ごしたい。人生の終い方を考え、日々の楽しみを見出すヒント満載のエッセイ集。『老いの世も目線を変えれば面白い』を全面改稿し、書き下ろし数編を追加して再編集した最新エッセイ。