「人生100年時代」と言われるようになって久しい現在。厚生労働省が2021年9月1日時点の住民基本台帳をもとに、国内に住む100歳以上の高齢者の人数をまとめたものによれば、9月15日までに100歳以上になった人は、全国で8万6510人と、前年より6060人増加。昭和45年の310人から、51年連続で最多を更新しています。一方、22年5月に90歳を迎えた評論家の樋口恵子さんは「これまで考えていた老いは、まだその入り口に過ぎなかった」と日々痛感しているそうです。「ヨタヘロ」になったと自覚した今、お医者さんとのやりとりを通じて反省したことがあったそうで――。
矛盾じゃありませんか
私がまだ60代のころ、「かわいいおばあちゃん」という言葉をよく聞きました。当時の老人学級には、私より少し年配の大正生まれのお年寄りが集まっていて、その中に自分で書いた詩を詠んだ人がいました。少々うろ覚えですがこんな内容でした。
「年を取ったら小さなことには口を出さず、しかし、家の引越しや毎日の生活のことは相談してもらい、私の意見を聞いてもらう。家族と一緒に暮らして、みんなにかわいがられるおばあちゃんになりたい」
家の引越しについて語っていたのは、そのことで家族間の問題が起きていたのかもしれません。この人は、引越しのときも、どこかに遊びにいくときも、自分に相談してほしいと言っている。
つまり、「口を出さない」と言いながら、「私の話は聞いてほしい」のです。「かわいいおばあちゃんになりたい」と言いますが、あまりかわいくありません。
愛されたいという被愛の願望だけがあって、ご都合がよすぎる。「ちょっとこれ、矛盾じゃございません?」と言うと、みんな大笑いになりました。