「不気味な転換点」

かてて加えて、この歌は1831年にヴァージニア州サウサンプトンで起こった名高いナット・ターナーの奴隷一揆の集会を知らせる歌でもあった。

ターナーは革命と神がかりの不即不離の関係を示す予兆として、「太陽が不可思議な緑色に輝いた」のを見たことから決起の日を21日と決めた。ターナーは主人一家を含む白人60人を惨殺し、制圧に来た州兵と連邦軍によって奴隷側も100名以上が殺された。ターナーは逮捕され、11月11日に絞首刑となった。

このナット・ターナーの乱が引き金となって奴隷一揆への警戒心は高まり、「ブラック・コード」という奴隷への取り締まり規則が強化された。どれくらい厳しかったかといえば、ディープサウス(アメリカ最南部)ではこのターナーの一揆以降、黒人奴隷の平均寿命は一気に低下し、40歳まで生きることもままならなかったという(8)。

研究者ジョン・ラベルはこのナット・ターナー事件を「不気味な転換点」と見なし、浮世離れした内容の黒人霊歌が、奴隷制下のおそろしい黒人実存を反映したサバイバルなものと見なされるようになったという(9)。

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(1) ワイヤット・T・ウォーカー、梶原寿訳『だれかが私の名を呼んでいる 黒人宗教音楽の社会史』(新教出版社、1991年)、76頁。

(2) ウォーカー、45頁。

(3) 東理夫『アメリカは歌う。コンプリート版』(作品社、2019年)、611頁。

(4) 東、633頁。

(5) 益子務『ゴスペルの暗号 秘密組織「地下鉄道」と逃亡奴隷の謎』(祥伝社、2010年)、20-21頁に掲載されたヴァージョン。

(6) 東、628頁。

(7) 益子、198頁。

(8) 北村崇郎『ニグロ・スピリチュアル 黒人音楽のみなもと』(みすず書房、2001年2刷)、162-166頁。

(9) ジェイムズ・H・コーン、梶原寿訳『黒人霊歌とブルース アメリカ黒人の信仰と神学』(新教出版社、2005年6刷)、19頁、32頁。

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※本稿は、『黒人音楽史――奇想の宇宙』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。


黒人音楽史――奇想の宇宙』(著:後藤護/中央公論新社)

奴隷制時代から南北戦争、公民権運動をへて真の解放をめざす現代まで。アメリカ黒人の歴史とは、壮絶な差別との闘いであり、その反骨の精神はとりわけ音楽の形で表現されてきた。しかし黒人音楽といえば、そのリズムやグルーヴが注目された反面、忘れ去られたのは知性・隠喩・超絶技巧という真髄である。今こそ「静かなやり方で」(M・デイヴィス)、新しい歴史を紡ごう。本書は黒人霊歌からブルース、ジャズ、ファンク、ホラーコア、ヒップホップまで、黒人音楽の精神史をひもとき、驚異と奇想の世界へと読者をいざなう。古今東西の文献を博捜した筆者がおくる、新たな黒人音楽史。