川岸を進むが吉

これだけでもかなり高度な暗号で驚かされるが、秘められたものはまだまだある。

<水飲み柄杓を追え>の他のヴァージョンの歌詞(5)には「川岸を進むが吉 The riverbank would make amighty good road」という一節もある。これは逃亡奴隷を狩る白人ハンターの放つ犬の嗅覚から逃れるため、川の中を歩いて匂いを消せという指示である。

「水の中を歩け Wade in the water」という歌詞も同様の暗号である。とりわけ推奨されたのはせせらぎのような小川ではなく、腰ないし胸まで浸かれるような大きな川で、そこなら確実に犬を撒けるとされた(6)。

逃亡者は匂いのみならず音も消さねばならない。

<こっそり逃げ出そう Steal Away>という黒人霊歌に「主が私を呼ぶ、雷で My Lord, he calls me, by the thunder」という歌詞があるが、これはプランテーションからの脱出に雷鳴の轟(とどろ)く嵐の日が適していることを暗示している。嵐なので、白人奴隷所有者は見回る頻度が減り、逃げ出すときの物音はかき消され、足音や臭気も雨で洗い流されるのだ(7)。