「もう芸能界に戻ってくるな」という言葉
田中 :芸能界の方に何かあると、Twitterなどで「もう芸能界に戻ろうなんて思うんじゃない!」というコメントを目にする機会が多いと思います。
松本 :そういう言葉があまりに無理解で、暴力的だと多くの方に分かっていただきたい。ゼロから他の分野の仕事をするというのは、どんな人にとっても大変ですよね。社会もそうですけど、法律を司る国にも訴えていきたいことなのですが、「回復」というのは元いた社会に戻ることができて成立するものだと僕は思います。
高知 :そうですね。少しだけ当事者として言わせてください。逮捕された当初は、世の中みんながそういう風に思っているだろうととことんマイナスに考えていました。でも、実際のところは、今日一日を大事に最善を尽くして生きていれば、世の中って、理解ある人もいるんだってわかってきたんです。そうなると今まで見えなかった道が見えてきたし、自分を信じて諦めないで、過去の自分を認めて、また一歩踏み出していくと、気がついたら世の中の理解ある人に囲まれていました。新たに必要としてくれる居場所もね、出来てきたんですよ。だから今、心も身体も健康的で本当に楽だし、自分にもこんな幸せな日々が過ごせるんだ、ということを素直に感謝したいと思っています。
田中 :遼さんはその辺りどうですか?
橋爪 :僕の話で言うと、当時の報道とそれについてのコメントは6000くらいついて、その中のほとんどが「あんな息子はどうしようもない」というものでした。やはりそれに引っ張られるというか、その意見が俺に対する世間の評価の全てなんだと絶望しました。必要とされてない人間だとも思ったし、それを覆すのは不可能だと思い続けてきました。今でも頭の中がそのことでいっぱいになったりもします。でも、じゃあ自分の周りに居る人とか、自分と一緒になって楽しく過ごしたり笑ってくれる人は、自分に対してその意見を言うかというと、言わないんですよね。応援してくれる人がいることも自覚してきました。否定のコメントも一つの真実としてあるとは思うんですけど、自分がこれからどう動くか決めるにあたっては、自分の周りの言葉を信じることが一番良いのかなって今は思えています。5年目になって。
松本 :僕であっても、薬物関係の記事に「刑罰だとか、使用罪作ることはどうなのか」 って書いたりするとヤフコメで「この医者、依存症のこと全然わかってない」と書かれたりする。憤慨しつつも、だんだん心が折れていくんですよね。高知さん、橋爪さんの場合はそれとは比較にならないほどの誹謗中傷ですから、当事者の方達の苦しみはいかばかりかとメディアの方たちにも考えていただきたいですね。
田中 :薬物の依存の問題というのはない方がいいには決っているけれども、一度依存症になった人たちも克服した暁には、社会復帰できる社会、克服できたことを祝福する社会であり、メディアであってほしいものです。
松本 :社会に再起する人を受け入れる筋道ができれば、自ずと回復する人が増えるはずです。
今日は、橋爪さんが自助グループの話をたくさんしてくださってよかったです。守秘の伝統があって、あまり吹聴することではないことになっていますが、活動自体はすごく成果をあげているので、知ってもらうことが必要だと思います。薬物依存について「ダメ、絶対」に凝り固まっているだけでは解決にはなりません。今日のような機会に社会全体の理解がまた一歩進んでくれたらいいと思います。