笑えない介護スタッフの思い出

川内 「介護がうまくいっているかどうかは、利用者も家族もスタッフも笑顔でいられるかどうか」というのもいい。それを聞いて思い出したのが、ある「笑えない介護スタッフ」の話です。

『親不孝介護 距離を取るからうまくいく』(著:山中浩之、川内潤/日経BP社)

―― 笑えない、ってダメじゃないんですか?

川内 でも本当に彼は笑えなかった。たとえば、その職員と利用者さんが一緒に写真を撮ったときに、利用者さんはすごくいい表情をされているのに、職員は笑ってないんですよ。ところが利用者さんは「この子ね、笑えない子なの」って微笑んでいる。その素朴さが受けている。

―― なるほど、介護されている側の利用者さんが、思わず笑顔になる職員さん。

川内 最初は僕を含めて周りも「お前、なんでそんな無愛想なの?」と思っていたけれど、これは愛想なしとは違うんだというのが分かるわけです。彼は素朴で、不器用で、危なっかしくて、でも仕事にはものすごく一生懸命で、相手のことをいつも考えている。それを利用者さんは見抜くわけですよ。

―― 見抜いちゃうんですか。

川内 人を見る目というのは年齢が培うのかな、って思いますね。あるいは、親や上司といった社会的な役割を降りて、素の感情が出るようになったからかもしれません。

彼のぶきっちょな介護を見たら、利用者さんのご家族から「うちの母親にあんな職員を付けていいのか」と言われるかもしれません。挨拶の声が小さいとか、介助の手つきがぎこちないとかね。

確かに彼には教育が必要かもしれない。だけど、そんな彼を好いている利用者さんがいるわけですよ。おっとりして、いまいち頼りがいがない、「だから私が支えてあげなきゃ」という。

―― そういう「愛され職員」もいていい。