親の家に監視カメラ、という「親孝行あるある」

―― なるほど、理屈が分かったら腹が立たないかといったら、そういうわけにはいかない。だったらどうするかといえば。

『親不孝介護 距離を取るからうまくいく』(著:山中浩之、川内潤/日経BP社)

川内 そう、距離を取るしかない。距離を取って、納得できない現実を見ないようにする。会う時間を減らす、離れた場所にいるようにする。そのために必要なら公的支援を使う。

だけど、「とにかく親の近くにいて、ずっと見守るのが親にとっては嬉しい、親孝行なんだ」という思い込みが世の中には強いですよね。

―― 「そばにいる」ことが親孝行、という気持ちがまずある。それが、「常に見守りたい、心配してあげたい」という行動につながっていく。

川内 親の介護、というと「親の家に監視カメラを付けたい」とか、真顔で言い出す人も多いです。

―― ダメですか、監視カメラ。親も見守られていて嬉しかったりしませんかね。

川内 Yさん、あなた、監視カメラを子どもから付けられたら嬉しいですか?

―― ……いや、全然嬉しくないです。そこまで信頼されていないんだ、と思って、がっかりするかも。まして、カメラ越しに「ガスの火は消した?」とか「部屋が散らかってる!」とか”心配”されたら、ぶち切れるかもしれません。

川内 それが自然な反応だと思います。さらに言うなら、あなたは親の部屋をずっと見ていられるくらいヒマなんですか? ということですよ。その時間があるならお仕事やご家庭で使ったほうがいい。

どうしても介護、というなら、ケアマネさんとの打ち合わせをするほうがずっと有意義です。社長が店の様子をずっとカメラで見ている、なんて企業は、現場のやる気が破壊されて、破綻しますよ。

―― 自分の身に置き換えれば自明なことでしたが……なんで分からなかったのか。

川内 そのくらい、自分の親については私も含めてみんな「Hot Head Hot Heart」になるんですよね。

自分の子どもを自分の親の介護に巻き込む「ヤングケアラー」が問題になっていますけれど、これも「親を常に見守りたい、世話をしたい」という欲求のなせる業かもしれません。ほんとに親孝行をしたいなら、親がいやがることを強要したらダメですよ。親が何をしてほしいのかを考えないと。