認知症の人に接するときは「なぜその行動をとったのか」という理由を考えるのが大切、とよく聞くものの、どこまで実現できるかというと…(写真提供:Photo AC)
「親と距離を取るから介護はうまくいく」という一見“親不孝”と思われそうなスタンスを勧める、NPO法人となりのかいご代表・川内潤さん。これから母親の介護をすることになった現役の会社員・Y(山中)さんは、介護についての書籍を読んで「認知症の人に接するときは、なぜその行動をとったのかという理由を考えるのかが大切」と知り、川内さんにアドバイスを求めたのですが――。

「冷静な頭脳と温かな心を両立しなさい」

Y(以下――) さきほど「介護スタッフは、施設利用者が何をしているときが幸せかを読み取ろうとする」というお話をされたじゃないですか。あれって、家族でもできるんでしょうか?

川内 いや、どうでしょう。親御さんは子どもの前ではずっと「親」という役割を演じていたはずです。そのイメージから抜けられない(抜けられなくて当然です)子どもにとっては、「親」じゃなくて個人としての、お父さんお母さんが何を幸せと感じているかを読み取るのは大変ですよ。

―― なるほど。認知症の解説本ではよく「患者さんのおかしな行動にも必ず理由があります。それを読み取って、理解してあげましょう」といったことが書いてありますよね。親の気持ちを読み取ることができれば、理解の助けになったりしないかな、とか思ったんですけれど。

川内 ああ、そういうことなら、僕の意見は「やめたほうがいい」です。

―― えっ、やめたほうがいいんですか。

川内 支援の現場の中で「大事にしなさい」と言われている言葉があって、「Cool Headbut Warm Heart」。ビジネスの世界でも使われますけど、文字通り、「冷静な頭脳と温かな心を両立しなさい」ということでしょう。でも、これって自分の親の介護では絶対できないですよ。どっちもベリーホットになってしまう。

―― 親が相手だと、思考の冷静さを失って、心も、よくない意味で熱くなってしまう。

川内 子どもは、元気なときの親を知りすぎていることによって、振り回されるんです。介護本が言う「行動の背景を理解」することができたとしても、「でも、なんでこんなことになっちゃうの?」という、感情は抑えられない。頭で分かったとしても、気持ちが納得できない。そこに家族は苦しむんです。