成年後見制度を利用

結果的に3年後の2014年、のぶよさんは一人暮らしに戻った。扶美さんの家から徒歩10分程度の賃貸マンションである。

しかし、それから「認知症」の症状が少しずつ表れ始める。娘の扶美さんのもとに、母ののぶよさんが住む家の光熱費の督促状が届くようになったのだ。のぶよさんの住民票には、扶美さん宅の住所が記載されていたからである。

「本当はその数年前くらいから認知症の症状があったのかもしれません。振り返れば同居していた頃も、認知症のような症状が軽くありました。ただ明らかになったのは、そのあたりからで。母には父の遺族年金(恩給※)もありますし、十分な生活費があるはずなのに、督促状が次々に届く。当然、母を問い詰めました。でも公共料金が払えないということを本人は理解できなくなっていました。『私のお金、勝手やろ』と言うんです。いろいろ調べるうちに商店街で着物の帯を60万円で購入し、その支払いを1万円しかしていないこともわかり、もう返品もできないのだと知りました」(扶美さん)

医師から診断を受け、扶美さんは成年後見制度を利用することにした。成年後見制度とは判断能力が不十分で、契約行為や財産管理などを行えない人に対して後見人が代理で手続きをし、本人を保護する制度である。

家庭裁判所に申し立てをし、扶美さんはのぶよさんの後見人になった。

「母が購入した帯は私が払ってしまおうかと思ったのですが、それはダメで、本人が年金内で少しずつ返済していくように裁判所から指導されました。でも私が母の財産を管理して2年程度で帯の代金は完済しました。

あれから5年ほど経ちましたが、ようやく100万円程度の貯金もできて。その間、母の食費や光熱費は、私の主人が多少援助しましたけどね」

※恩給――旧軍人が公務のために死亡した場合、忠実に勤務して退職した場合において、これらの者およびその遺族の生活の支えとして給付される国家補償を基本とする年金制度