特別養護老人ホームに申し込みをした
扶美さんは、少し前まではこの生活を続けるつもりだったという。自分が母とこの家に住み、家族の住む家には毎日通いで家事を行って見守る。成年後見人として煩雑な事務手続きや財産の管理をする。たしかに、現状をみればそれでまわっていきそうだ。
しかし昨年の秋、のぶよさんは大きく体調を崩した。デイサービスにいる間、たびたび意識を消失してしまったのだ。
扶美さんは「あの頃の母は生ける屍しかばねのようだった」と振り返る。
「生きる気力、活力がないようでした。あまり食べないし、おしっこもそのへんに漏らしてしまったり、タオルに便がついていたり……その処理をするのが私もつらくて。病院で詳細に検査してもらいましたが、身体に異常はみられませんでした。自律神経の問題と言われたんです。たびたび意識を失うので、デイサービスからは預かれないと言われますし、かといって私が24時間見ることはできませんし……。結局理解のあるデイサービスに移るとともに、母の症状は自然と落ち着きました。ただ、あの時にもうダメだなと思ったんです。その前も、私が目を患って体が弱くなり、自分の子どもたちにもいろいろ問題が起きて、主人は定年ですし、そのうえ母の介護など無理をしすぎているかもしれないと感じてきました。そこに昨年の秋、実際に母が体調不良に陥り、とどめをさされたようでした」
2022年春、扶美さんは特別養護老人ホーム(特養)に申し込みをした。特養は「要介護3以上」で常時介護が必要な人のための公的施設である。医療ケアは弱いものの、低コストで日常生活全般にわたって手厚い介護が受けられるため、どの地域でも入居待ちの待機者がかなりの数にのぼることが知られている。
「ケアマネさんから『特養は入居まで4、5年かかるかもしれないし、申し込んでみましょう』と勧められました。近隣で何か所かに申し込んでいます。特養なら母の年金内で十分にやっていけるんです」