冬はよく、けんちん汁を作るという。店で売っている名物の分厚い厚揚げは、いつも食べている(写真提供:すばる舎)

自分の食事は自分で用意。よく食べ、よく寝る

夫はとても温厚な人物であったという。10年前、90歳で亡くなった。

晩年、配達されてきた新聞を戸外に取りに行った折、転倒して大腿部を骨折してしまう。しばらく入院したが、自宅療養していた。

頭はしっかりしていて元気だったので、せき子さんは、それほど介護するということもなかった。

ある日、昼ご飯の時間なのに、部屋から出てこない。昼寝しているのかなあと近づくと、すでに息をしていない。そんな亡くなり方であった。

 

子どもは3人。1女2男。長女は10年前に亡くなった。

11年前、定年退職した長男が東京から帰ってきて、一緒に暮らしてくれている。長男の勝廣さんは、18歳で家を出てホテルの料理人として働き、フランス料理を極めようと、銀座のフランス料理店で15年、料理人を務めた。

勝廣さんいわく、

「おふくろはとにかく働き者。仕事が好きなんですね。ぼくらが子どもの頃もずっと忙しくしていたから、なかなかかまってもらえなかった。それで、自分はひとりで勝手に食べる物を作るようになって。そんなことがきっかけで、料理の世界を志すようになったんです」

『過疎の山里にいる普通なのに普通じゃないすごい90代』(著:池谷啓/すばる舎)