ご夫婦それぞれの《ワールド》があった
もう一つ、どちらかがどちらかに大きく依存している御夫婦ではないと感じたのは、徹さんには徹さんの、郁恵さんには郁恵さんの《ワールド》があったことでした。
たとえば郁恵さんが13年にもわたって続けてきた「いくえ農園」。私はてっきり、徹さんの身体を気遣って、自ら野菜作りを学ぼうとしたのだと思っていたのですが、挑戦のきっかけは「食料自給率が低迷する中、自分たちで自給できるようにしなくちゃ」だったとのこと。「農家さんの苦労が少しだけわかりました。一人ではできないことも地域で協力し、若い人たちの発想を取り入れながら、農業がますます盛り上がることを願ってやみません」が、《卒業》のコメントでした。
徹さんは徹さんで、芸能界で、本当に幅広いお付き合いがあったのです。劇団で切磋琢磨していらした中村雅俊さんや小川菜摘さん、舞台で共演した後輩の俳優たちが、異口同音に感謝のコメントを寄せていらっしゃいました。
なかでも、今年10月から上演した主演舞台、『今度は愛妻家』で徹さんと共演していたA.B.C-Zの戸塚祥太くんは、「大先輩なのに徹さんのほうから話しかけてくれて嬉しかったです。徹さんの笑顔は現場を明るくしてくれました。お芝居に対して、とても熱い方で、沢山アドバイスもいただきました。何より舞台の上で演じている徹さんの姿が僕にとっては一番の教えでした。徹さんの立ち振る舞いに多くのことを学ばせてもらいました(後略)」と、誰よりも先にコメント。「戸塚くんの言うとおり」と言っている俳優さんやタレントさんの声をその後、何人もから聞きました。
でも、徹さんプロデュースの「徹座」という《お笑いライブ》のことは、御存知ない方が多かったようです。同ライブに参加していた「中川家」「ナイツ」「サンドウィッチマン」らが弔問に駆け付けた際、3組ともが、大中小のマヨネーズを供え、「マトリョーシカみたいになっていた」とラジオ番組で明かしたのは「ナイツ」の塙宣之さんでした。
徹さんはバラエティ番組にも理解のある俳優さんでしたから、上沼恵美子さんや山田邦子さんらとも共演が長く、その中の番組に私も出させていただいたことがありました。